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[2022.1] カエターノ・ヴェローゾが語る『メウ・ココ』|カエターノ最新インタビュー

インタビュー&文●中原 仁

 2021年10月下旬にデジタル・リリースされ、「2021年ブラジル・ディスク大賞」一般投票、関係者投票、両部門とも第2位にランクインした、カエターノ・ヴェローゾの『Meu Coco(メウ・ココ)』。年末にはCDもリリースされ、日本盤CDはブラジル側の事情で1カ月延期になったが2022年1月19日に発売される。
 日本盤の解説執筆にあたり、カエターノがメール・インタビューに応えてくれることになり、10月にカエターノがソニーミュージック公式サイトを通じて発表した新作に関するコメントから漏れていた部分を中心に質問を作成。11月初旬に回答が届き、一部はCDの解説に引用したが、ここで全文を掲載する。
 その前にまず「カエターノ・ヴェローゾが自身の言葉で語る『メウ・ココ』のコンセプト」を読んでいただきたい。

⎯⎯『Meu Coco』 の最大の特徴は、あなたの “声” の音楽性 で、発声、声の表情、ポルトガル語の音楽的な響きを生かした詩作など、創造性と美意識を感じることができました。あなたが自身の声について留意したのは、どういった点でしたか?

カエターノ(以下、CV) 私はただ、自分の声を最大限に使おうとしただけです。私はもう年をとっているので、27歳や46歳の時のように、正確できれいな声は出せません。

⎯⎯ 共同プロデュースを行なった、ドニカのルーカス・ヌネスについて。彼に依頼した動機、あなたが考える、彼の音楽家としての特徴を教えてください。

CV ルーカスは、とても才能のあるミュージシャンです。また、レコーディング・スタジオの技術的な問題に対処できる能力も持っています。私の息子であるトンの友人(バンド仲間)で、私の家の近くにいました。彼らのバンド、ドニカはとても素晴らしく、皆、とても豊かで複雑な方法で音楽を演奏し、理解しています。だから彼が、一緒に仕事をするのに適したプロデューサーであることは、ほぼ明らかでした。

⎯⎯ あなたが2016年に来日した際、「注目する若い音楽家は?」との私の問いに答えてチアゴ・アムーヂの名前をあげました。チアゴはタイトル曲「Meu Coco」でホーン・アレンジを行なっています。彼に依頼した動機、あなたが考える彼の音楽家としての特徴を教えてください。

CV 彼の才能。彼のアルバムに収録されている彼自身の曲のアレンジを聴いて「Meu Coco」のアレンジャーに最適な人だと確信しました。


⎯⎯ 「Meu Coco」の歌詞カードに、“Jorge Mautner, Mércio Gomes、そしてManhã de Paulaの思い出に捧ぐ”と記されています。ジョルジ・マウチネル以外の2人、メルシオ・ゴメスとマニャン・ヂ・パウラについて教えてください。

CV メルシオは人類学者で、ルーラ大統領の時代にFundação Nacional do Índio(国立先住民保護財団)の代表をつとめました。彼は著書『O Brasil Inevitável』の中で、海岸沿いの小さな村では、生粋のブラジル人と黒人が混在していることを強調しています。
 それに触発されて私は、「Somos mulatos, híbridos e mamelucos / E muito mais cafuzos do que tudo o mais(僕らはムラート [白人と黒人の混血] でハイブリッドでマメルッコ [白人と先住民の混血] だ。そして、なによりもずっとカフーゾ [黒人と先住民の混血] だ)」という歌詞を書きました。
 マニャン・ヂ・パウラは、作家のジョゼ・アグリッピーノ・ヂ・パウラとダンサーのマリア・エスター・ストックラーの娘です。彼女の名前、マニャン(朝)は、ヒッピーらしい美しい選択でした。残念ながら、彼女は10代後半で、交通事故で亡くなってしまました。

⎯⎯ 「Gilgal」の歌詞に出てくる何人かの音楽家の名前の選択には何か意図がありますか?
 一人だけアフリカ系ブラジル人ではないカルロス・リラの名前があることに興味を持ちました。
 また曲名を、歌詞に名前がない “(Gilberto) Gil , Gal (Costa)” とした理由は?

CV このアルバムの多くの曲には、たくさんの名前が出てきます。GilGalはヘブライ語で神社の王を意味する言葉で、聖書のパレスチナの町の名前になっていました。トーマス・マンの小説『ヨセフとその兄弟』の中で見つけたのですが、それが私の最も親しいトロピカリズモの同志であるジルベルト・ジルとガル・コスタの名前で形成されていることに気づき、驚きました。
私は、1920年代以降のブラジルの偉大な音楽家たち、主に黒人の音楽家たちの名前を呼ぶようになりました。彼らはジルガル(縦に置かれた石を丸く並べたもの)を形成している。聖書を参考にしていますが、基本的なパーカッションはアフロ・ブラジルの宗教的な音楽で、ここでは息子のモレーノが演奏しています。
 カルロス・リラは、私たちが若く、ボサノヴァが新しい音楽だった頃、ジルのフェイヴァリット・アーティストでした。ガルとジルの名前はタイトルに入っていて、歌詞には出てきませんが、そこにリラの名前を入れるときは、私はジルを指しています。ブラック・ミュージックの天才たちのリストも、ジルを指しています。そして、「兄弟姉妹のような僕らの魂は、朝を切り裂いた。とはいえ、チンコアンスの足許にも及ばなかったが」の歌詞は、ガル、ジル、私の声は、オス・チンコアンス(1950年代初頭に結成されたバイーアのヴォーカル・グループ)の歌声とは比べ物にならなかった、ということを歌っています。
 これは、トロピカリストのムーヴメントについての曲です。

⎯⎯ パンデミックで先の見通しが立てづらい時期が続いていますが、リリース・ライヴは、いつ頃から始める考えですか?また、その際のバンドの編成などのアイディアは出来ていますか?

CV まだです、実際のところ。

 カエターノから回答が来たのが11月初旬。その時点ではまだ、リリース・ライヴについて発表できるタイミングではなかったようだが11月下旬、ツアーのスケジュールが発表された。
 4月1日、ベロオリゾンチを皮切りに、ポルトアレグリ、サンパウロ、サルヴァドール、レシーフェ、リオ、ブラジリアで公演。リオ郊外で開催されるロックフェス出演も含め、現時点で6月まで17公演が発表されているが、追加公演が組まれることは間違いない(コロナ禍のため日程など変動の可能性あり)。
 バンダセーに代わる、どんな編成のバンドで『Meu Coco』のライヴに臨むのか、興味津々。6月には日本からブラジルに旅行できる、そんな時期に戻っていることを祈りたい。
 最後に、アルバムのリリース直後の昨年10月下旬、カエターノがテレビに出演して新作の収録曲「Não Vou Deixar」を歌った時の映像を。
 ここでのメンバーはルーカス・ヌネス(キーボード、ギター)、プレチーニョ・ダ・セヒーニャ(パーカッション)、アルバムの録音には参加していないアルベルト・コンチネンチーノ(ベース、キーボード)だ。

(ラティーナ2022年1月)


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