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[2024.10]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年10月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

 e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Carla Pires · VaiVem

レーベル:Ocarina [-]

 ポルトガルの新世代ファド歌手として活躍するカルラ・ピレスの5作目となる最新作。2017年には日本国内ツアーも行い、各会場大盛況だったことは記憶に新しい。ソロのファド歌手として本格的に活動して今年で20周年を迎えた。本作はそれを記念して制作されたもの。
 自身のオリジナル曲のほか、ファド歌手アルフレド・マルセネイロや、モザンビーク生まれのポルトガル人ファド歌手/作曲家/演奏家として長年活躍しているアメーリア・ムージェ、ポルトガルのSSWアントニオ・ザンブージョにより書かれた楽曲が収録されている。
 曲調によって表現を変え、感情移入した歌はとても説得力がある。静かに、そしてしなやかな彼女の歌声と、ポルトガルギターなど弦楽器との相性は抜群でとても素晴らしい。これまでの彼女のキャリアを讃えるように様々な曲調の楽曲、静かな曲だけでなくアップテンポな曲もあり、彼女の魅力が充分堪能できる。歌の上手さに圧倒される美しい作品。

19位 Lemon Bucket Orkestra · Cuckoo

レーベル:Lemon Bucket Orkestra [26]

 カナダ・トロントを拠点に活動しているクレズマーバンド、レモン・バケット・オーケストラ(Lemon Bucket Orkestra:LBO)の最新作。フルアルバムとしては4作目となる。2010年から活動開始、メンバーの入れ替えもあって現在は12人編成、自らを「スラヴ・バルカン・クレズマー・パーティー・パンク・バンド」と称して活動している。世界各国の音楽フェスやワールドツアーなどで演奏し、国際的にも広く知られている。また、1stアルバムが2014年、2ndアルバムが2018年のJuno賞にノミネートされ、国内外で高く評価されているバンド。
 カナダ在住ウクライナ人、マーク・マルツィフ(MARK MARCZYK)がリーダー、その妻で同じウクライナ人のマリチカ・マルツィフ(MARICHKA MARCZYK)がヴォーカル、二人でフロントを務め(夫婦二人でのユニットBalaklava Blues もありこちらも要チェック!)、カナダの実力派ミュージシャンたちが脇を固めている。人数が多いこともあるだろうが、音の厚みとエネルギーが半端ない!本作では、スーザフォン、ホルン、トランペット、クラリネットなどの管楽器、ヴァイオリン、打楽器でパワー全開、躍動感溢れるバルカン半島のリズムもあれば、ウクライナ・ポリフォニーによる癒しの楽曲も収録されている。コチャニ・オルケスタル(Kočani orkestar)の元メンバー、マケドニア人トランペット奏者のニゾ・アリモフ(Nizo Alimov)や、和製バルカンユニットJapaLkan(ヤパルカン)の創設メンバーでもあり現在はカナダ在住の菱沼尚生もフリューゲルホルンで一曲だけ参加している。
 この作品が放つエネルギーにとても驚かされた。リズムに陶酔し、魂が浄化されていくかのような作品だ。現在ツアー中とのことだが、ライヴを生で体感してみたいと強く思ったバンド。

18位 K.O.G. · Don’t Take My Soul

レーベル:Heavenly Sweetness [-]

 ガーナ出身のミュージシャン、K.O.G(Kweku of Ghana)ことクウェク・サッキー(Kweku Sackey)のソロ名義としては2枚目となる作品。イギリス・シェフィールドとガーナを拠点に活動しており、アフロ・フュージョングループ、K.O.G & The Zongo Brigade のリーダーでもあり、アフリカン・ダンスミュージックユニットONIPAのシンガー兼フロントマンも務める。作曲家、ヴォーカリスト、パーカッショニスト、アレンジャー、アートディレクター…etcとマルチな才能を持つミュージシャン。
 本作は彼自身によるプロデュース作品で、ロンドンのジャズ・ピアニスト Pat Thomas、イギリス人ラッパー/詩人/ミュージシャン Dizraeli、ガーナ人ラッパー Fameye などがゲスト参加している。ガーナで生まれ育ち、成人後はイギリスで過ごした彼にとって、自身の音楽と個性を形成してきた多様な影響を吸収し、組み合わせ、洗練させてきた生涯の集大成とも言える作品。アフロビートとハイライフが根底にあり、キャッチーなメロディ、高速ラップ、インディー・ジャズ、そしてルーツであるアフリカ伝統音楽を感じさせる楽曲もあって、多様な音楽が反映、融合されている。とても洗練されたアレンジとなっており、アルバム全体を通してカッコいい!

17位 Bab L’ Bluz · Swaken

レーベル:Real World [5]

 2018年モロッコ・マラケシュでモロッコ/フランスの混成メンバーにより結成されたバンド、Bab L' Bluzの最新作。本作が2作目となる。2020年にリリースされた、デビューアルバム『Nayda』は、仏ル・モンド紙や、ニューヨーク・タイムズから称賛を受け、2021年のソングラインズ賞のフュージョン部門を獲得し、世界的にも高い評価を得た。
 モロッコのグナワ音楽など、アフリカ北部マグレブのトランス的で推進力のあるリズムに根ざしており、サイケデリック、ブルース、ロック、ヘビメタにまで通じ、アクセル全開で楽曲が展開していく。MVではモロッコの弦楽器ゲンブリを弾いており、ゲンブリを現代の国際音楽シーンに広めるという夢を持つバンド。ぶっ飛びっぷりがとても気持ち良い!先月いきなり1位で登場したが、それが納得できるほどエネルギー溢れる作品。
 自分自身を見失うことで自分自身を見つけるというのが、本作の中心的な信条だそうだ。温かみのあるアナログ・サウンドは、ジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリンなど70年代のロック・アイコンに、アフリカのトランスの美学をミックスさせており、神聖な霊の憑依を目的としたモロッコの儀式の影響を感じさせる。これらの融合したサウンドに説得力さえも感じられる。
 フロントウーマンであるモロッコ出身のヴォーカル、ユスラ・マンスールの歌声が素晴らしい。シンプルな歌声ではなく複数音が混ざっているかのような歌声で、多様なメロディを歌いこなす技術に圧巻。そして、激しいリズムで強さを、ゆったりした楽曲では彼女の優しさも感じられる。聴いていて、頭がスッキリ覚醒し、だんだんとハマってしまう作品。堪らない!

16位 Varijashree Venugopal · Vari

レーベル:GroundUP Music [9]

 インドの歌手/フルート奏者である、ヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパル(Varijashree Venugopal)のフルアルバムとしては初めての作品。スナーキー・パピーのマイケル・リーグがプロデュースし、彼のレーベルからのリリース。
 ヴァリジャシュリーは、1991年インド南部カルナータカ州の州都ベンガルール生まれ。両親ともに優れた音楽家であり、1歳半の頃から100のラーガ(インド古典音楽の旋法)を聴き分け、4歳で南インドの古典音楽であるカルナティック音楽のコンサートを始めたという神童だったそう。
 約10年前にマイケル・リーグと出会ったようで、その頃の彼女はさまざまな形の音楽を探求していて、カルナティック音楽のテクニックや基礎を、ジャズやブラジル音楽などインドの音楽とは異なるジャンルに応用していた。そこから発想を得たのだろう、本作は7年かけて制作されたとのこと。
 伝統的なカルナティック音楽が根底にありながら、ジャズの即興的要素やスキャットを散りばめ、楽器の一つとも言える彼女の伸びやかで透き通った歌声、インドのパーカッションの響きがとても印象的。マイケル・リーグをはじめ、アナット・コーエン、ブラジルのバンドリン奏者のアミルトン・ヂ・オランダも参加しており、多様な音楽的文化が見事に融合している作品。タイトル『Vari』はサンスクリット語で「水」を意味し、透明感溢れる彼女の歌声が、まさに水のような純粋さや透明感を表現している。魅力的な彼女の歌声にとても惹き込まれる作品。

15位 África Negra · Antologia Vol. 2

レーベル:Les Disques Bongo Joe [-]

 赤道付近に位置するアフリカの島国サントメ・プリンシペのグループ、África Negra のアンソロジー作品の第二弾。第一弾は2022年4月にリリースされ、本チャートに5ヶ月間ランクインしていた。今回は、ツアーマネージャーが残していたというスタジオテープからデジタル化された未発表音源の中から13曲を厳選し、リマスタリングした作品。前作リリース時にその情報が出ていて大変楽しみにしていたが、ようやくリリース!
 バンドは1974年に「Conjunto África Negra」として結成された。サントメ・プリンシペがポルトガルから独立した後、彼らはサウンドにさらにアフリカの要素を加えた。1976年ジョアン・セリアがヴォーカルとしてバンドに参加、軽快なリズムと優雅なハーモニーで最も成功した時代が始まった。何度かのメンバーチェンジを経て、バンドは1996年に解散。しかし、2008年より再び活動を再開、それ以来3枚の新作アルバムを発表し、現在もツアーを続けている。2023年にはヴォーカルのジョアン・セリアが死去し、サントメ・プリンシペで国葬が執り行われた。国葬が行われるほどの人だということは、このバンドがサントメ・プリンシペで最も重要で影響力のあるバンドであることを証明している。
 本作はそのジョアンへの追悼の意味も込められており、第一弾同様、サントメ・プリンシペ独自のPuxa(プシャ)と呼ばれる音楽、またプシャだけでなくルンバ、プシャとルンバが融合したエネルギッシュで陽気なリズムが堪能できる。エレキギターで奏でるキャッチーなメロディがとても心地良く印象的。
 余談ではあるが、アルバム最後の曲は「みなさん、みなさん、みなさん」と日本語で言っているように聴こえる。(完全なる空耳!)ジョアンが我々に向けて何かメッセージを訴えかけているかのようだ。

14位 Ayom · Sa.Li.Va

レーベル:Ayom / Believe [-]

 地中海のアイデンティティを持つ音楽家たちのユニット Ayom の2作目となる作品。バンド名はアフリカ系ブラジル人のカンドンブレに登場する「音楽の神」を意味する。
 ヴォーカルとパーカッション担当のブラジル人ミュージシャン Jabu Morales が2008年にバルセロナに移住し、イタリア人アコーディオン奏者Alberto Becucci、ギリシャ系イタリア人のパーカッショニスト Timoteo Grignani と出会ったことからこのプロジェクトが始まった。その他のメンバーは、アフリカのグルーヴとフラメンコを得意とするアンゴラ人ギタリストRicardo Quinteira、アンゴラ人ミュージシャン兼DJの Walter Martins、さらに、ブラジル音楽とアフロ音楽を専門とするベーシスト Francesco Valente。また本作のプロデュースはブラジル人パーカッショニスト/プロデューサーで、ベンジャミン・タウブキンなどとも共演経験のあるギリェルミ・カストルッピ(Guilherme Kastrup)が担当し、国際色豊かな面々による作品。
 ブラジルのフレーヴォやマラカトゥ、アンゴラのセンバ、カーボベルデのフナナーなど各国の伝統的な音楽と、メンバーが現在住んでいるバルセロナやポルトガルなどヨーロッパのグルーヴがうまくミックスされていてとても魅力的なサウンド!カンドンブレのオリシャの名前が付けられている楽曲もあって、カンドンブレがベースにあることがうかがえる。
 フレーヴォの楽曲にはブラジル人歌手のジュリアナ・リニャレス(Juliana Linhares)、センバの楽曲にはアンゴラのセンバを長年歌っている歌手パウロ・フローレス(Paulo Flores)、イタリアの50年代からの名曲を2017年のユーロヴィジョンで優勝したポルトガル人歌手サルヴァドール・ソブラル( Salvador Sobral)がゲストで参加している。
 タイトル『SA.LI.VA.』は、「SA」は「sagrada(神聖なもの)」、「LI」は「liberdade(自由)」、「VA」は「valentia(勇気)」の頭文字をくっつけたもので、精神性や自由、勇気をテーマにしたことを表している。
 我々を柔らかく包み込むような彼女の歌声がとても心地良く、アコーディオンとの相性がとても素敵。ブラジル音楽ファンだけでなく、ポルトガル語圏の音楽が好きな人にはたまらない作品!とてもいいです!

13位 Jyotsna Srikanth · Carnatic Nomad

レーベル:Naxos World [11]

 イギリス系インド人のヴァイオリニスト、ジョツナ・スリカンス(Jyotsna Srikanth)の最新作。今月16位にもランクインしているヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパルと同じインド南部カルナータカ州の州都ベンガルール生まれで、母親がカルナティック音楽の音楽家/教師であったため、幼い頃から英才教育を受けてきた。結婚してロンドン移住し、世界的な音楽イベントに参加するなどし、欧米にカルナティック音楽の認知を広める活動を行なっている。
 彼女は、主に15~18世紀のカルナティックの作曲家による作品を解釈し、伝統的なラーガ(インド古典音楽の旋法)の基本的な音階であるメラカルタ(Melakarta)に由来する美しいラーガの数々を表現している音楽家。インド古典ヴァイオリンと西洋ヴァイオリンの両方をきっちり学んだ彼女の卓越した運指テクニックと、感情を含んだ音楽的表現を融合させている。
 本作は、彼女が10年以上前にヨーロッパで6ヵ月にわたって15カ国で行った大規模なツアーがルーツとなっている。ツアーで行った選りすぐりの楽曲を二人の南インド人の打楽器奏者と共に再演した音源が収録されている。全7曲だが、1曲あたりの時間が長いものもある。カルナティック音楽の伝統的で複雑な音階、リズムやテクニックなどがたっぷりと堪能できる。ヴァイオリンと、ムリダンガムやカンジーラ(フレームドラム)など南インドの打楽器が、呼応しつつ息ピッタリの演奏に度肝を抜かれる。

12位 Driss El Maloumi Trio & Watar Quintet · Details

レーベル:Contre Jour / Zig Zag World [21]

 「ウードの魔術師」とも称されるモロッコの実力派ウード奏者、ドリス・エル・マルーミ(Driss El Maloumi)の最新作。自身のトリオと弦楽五重奏によるコラボ作。トリオは、ドリスのウードと、ドリスの弟サイード・エル・マルーミ(Saïd El Maloumi)とラフシーン・バキール(Lahoucine Baqir)のパーカッション編成。ソロ名義作の前作『Aswat』にも参加していたお馴染みのメンバー。そこに、二丁のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの弦楽五重奏が加わった豪華な編成によって演奏されている。
 ドリスは、子供の頃から映画で耳にするオーケストラのサウンドに魅了されていた。そして以前から、アラブのクラシック音楽と西洋のクラシック音楽を融合させることを夢見ていたそうだ。今回はまさにそれが実現した内容となっていて、ウードと中東のパーカッション、西洋楽器という異なる二つの世界が見事に美しく融合されている。
 本作は、2年以上にわたる集中的な作業と実験の成果で制作されたそうで、ウードと西洋の弦楽器、また西洋の弦楽器とアラブのパーカッションの組み合わせが絶妙で、美しい世界が表現されている。彼の夢が叶った美しく繊細な作品。

11位 Los Cumbia Stars · La Cumbia Une a Latinoamérica

レーベル:Discos Fuentes [24]

 コロンビアのダンス音楽クンビアを中心に演奏するコロンビアの9人組バンド、Los Cumbia Stars の最新作。スタジオ録音としては5作目となる。2020年のラテン・グラミー賞では最優秀クンビア/バジェナート・アルバム賞にノミネートされた実力派グループ。コロンビアの伝説のレーベル Discos Fuentes と契約したトロピカル・ジャンルの唯一の新人バンドとして話題となった。
 本作では、クンビアを演奏している中南米各国のグループや歌手と各曲でコラボレーションしている。エクアドルの Papaya Dada、ペルーの Los Mirlos、メキシコの Ronda Bogotá、チリの Pascuala Ilabaca、ベネズエラの C4 Trio、アルゼンチンの Onda Sabanera、コロンビアのAleMor、ウルグアイの Cumbia Club、パラグアイの Aye Alfonso といった各国のクンビア代表ミュージシャンが参加し、中南米全体でクンビアを盛り上げていこうとしている。収録曲が各国のトップチャートにもランクインするなどしているので、彼らの活動が成果を上げていると言えるだろう。
 彼らのみの曲は最初の1曲目のみで、それ以外は全てコラボ曲。共演ミュージシャンのカラーに合わせつつ、バンドの個性も表現していてバラエティ豊か。クンビアのいろんな世界を堪能できる良い作品!

10位 Arooj Aftab · Night Reign

レーベル:Verve [8]

 パキスタン出身、バークリー音楽大学でジャズを学び、卒業後はNYを拠点に活動してきたSSWアルージ・アフダブの最新作。本作がソロとしては4作目となる。
 ルーツとなる南アジアの伝統音楽、学んだジャズ、ポップス、ブルースなどが絶妙に混ざり合う楽曲を制作、ジャンルに捉われないヴォーカルを実践し、幅広い研究レパートリーを披露してきた。2021年以降、メジャーな音楽フェスに多数出演し多くの観客を魅了、ニューヨーク・タイムズ紙やローリング・ストーン誌、タイム誌などから高い評価を受けた。2022年グラミー賞最優秀新人賞にノミネートされ、ベスト・グローバル・ミュージック・パフォーマンス部門で彼女の楽曲「Mohabbat」が受賞した。2023年には、ヴィジェイ・アイヤー、シャザード・イズマイリーとのトリオ・アルバム『Love In Exile』をリリースし、このアルバムが第66回グラミー賞最優秀オルタナティブ・ジャズ・アルバム賞と最優秀グローバル・ミュージック・パフォーマンス賞の2部門でノミネートされるなど、ますます期待が高まる音楽家の一人として評価されている。
 そんな彼女による最新作は、タイトル通り「夜」に焦点を当てた作品となっており、自身によるオリジナル8曲と、スタンダード1曲の全9曲が収録されている。彼女の歌声がアルバムのテーマに合う、落ち着いた低音、それでありながら強さやしなやかさも感じられる。暗闇になると現れる孤独や、内省的な感情を多面的に美しく表現している。彼女独特の素晴らしい世界が繰り広げられている作品。

↓国内盤あり〼。

9位 Meridian Brothers · Mi Latinoamérica Sufre

レーベル:Les Disques Bongo Joe [6]

 コロンビア・ボゴダで1998年に結成された前衛的バンド、メリディアン・ブラザーズの最新作。サルサやクンビア、バジェナートなどカリブのリズムにサイケデリックなエレクトリックサウンドを組み合わせ実験的な音楽を制作しているグループ。
 本作は、熱帯のラテンにおいて、エレクトリック・ギターの未開拓の可能性を探求したいという欲求から生まれたコンセプトアルバム。アフリカの大衆音楽であるハイライフやスークースで使われるギターの音色やリズムからインスピレーションを得て、それらのラテン音楽と融合させているユニークなアルバム。サイケデリックの中に、ハイライフやアフロビートも感じられ、もちろんクンビア、キューバなどラテンも味わえるという不思議な作品。他に類を見ない革新的なサウンドで、彼ら独自の世界観を大胆に表現している傑作!

8位 Seun Kuti & Egypt 80 · Heavier Yet (Lays the Crownless Head)

レーベル:Record Kicks [-]

 現代アフロビートの最高峰、ナイジェリアのシェウン・クティと、彼の父である伝説的カリスマ、フェラ・クティから引き継いだバンド、エジプト80との最新作。ミラノのインディペンデントレーベル、Record Kicksよりリリース。グラミー賞にノミネートされた前作『Black times』から6年ぶりのリリースとなる。
 それだけでも話題作になること間違いないのだが、さらに本作のプロデュースは伝説的ミュージシャン、レニー・クラヴィッツがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、フェラ・クティのオリジナル・エンジニアであるソディ・マルシゼウアー(芸術プロデューサー)がプロデュースを担当。また、ボブ・マーリーの息子でレゲエ界のアイコン、ダミアン・マーリー、ザンビア出身のラッパー/SSWで、現代屈指の革新的な作詞家であるサンパ・ザ・グレートもゲストで参加している。
 本作は、アーティストとして、また活動家として、シェウンの輝かしいキャリアにおける重要な節目となる作品。前作以上にアフロビート全開でグルーヴ感がめちゃめちゃカッコいい!エンターテイメント性だけでなく、彼の行動力と解放の精神を鼓舞するアルバムと言えるだろう!今年のアルバム上位にランキングされること間違いない。

7位 Vigüela · We

レーベル:Mapamundi Música [3]

 スペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身のユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。2022年リリースの前作『A la Manera Artesana』も本チャートに長期間ランクインしていたが、本作はそれ以来で10作目となる作品。以前は5人組だったが、現在は4人で活動しているようだ。スペインの伝統音楽の遺産を探求し続け、それを現代に再構築し世界的に発信しているグループ。
 本作でも、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャなど、スペインの伝統音楽が収録されている。彼らの祖先が不完全なまま残した古代の音楽言語を復活させる、というバンドのコミットメントが見事に反映されている。ギターや伝統的な民族楽器から、生活雑貨の瓶やフライパンまでも楽器として演奏、生活に根付いていた伝統音楽を演奏している。そして手拍子などを交えながら、力強くストレートに歌っているのがとても印象的。

6位 Ruşan Filiztek · Exils

レーベル:Accords Croisés [7]

 トルコ南東部の都市ディヤルバクル出身のクルド人ミュージシャン/サズ奏者/歌手のルシャン・フィリステックの最新作。2021年にソロデビュー作をリリースしたが、本作はそれ以来2作目となる作品。
 幼い頃父親からサズを習い、青春時代はイスタンブールで過ごし、その後シリアやイラク、アンダルシアからヨーロッパまで音楽を通して旅をし、2015年にアルメニア人、トルコ人、クルド人が共存するパリのポルト・サン・ドニ地区に辿り着く。パリのソルボンヌ大学で民族音楽学の修士号を取得し、幅広い演奏活動や様々なミュージシャン達とコラボレーションを行い、現在はパリで活動している。
 本作タイトルは「亡命」を意味し、彼のこれまでに音楽的、人間的な探求を反映した作品となっている。フラメンコ・ギタリストのフランソワ・アリア、パーカッショニストのファン・マヌエル・コルテス、ケルトのフルート奏者シルヴァン・バルー、アルメニアのドゥドゥク奏者アルチョム・ミナシャン、ヴィオラ奏者のマリー=スザンヌ・ドゥ・ロワ、ギリシャの歌手ダフネ・クリタラス、フラメンコ歌手のセシル・エヴロット、ジャズ・ベーシストのレイラ・ソルデヴィラとエムラー・カプタンらの友情が織り成す作品となっている。
 まだ全作は聴けていないが、上記動画はフラメンコとのコラボレーション。フラメンコギターとクラップ、そしてサズが入り、楽曲は中東音楽とフラメンコが融合しているのがお見事!

5位 El Khat · Mute

レーベル:Glitterbeat [-]

 イエメンのルーツを持つミュージシャン、エヤル・エル・ワハーブ (Eyal el Wahab)がリーダーを務めるアラビック・サイケデリア・バンド、エル・カート(EL Khat)の三作目となる最新作。2022年にリリースした前作も本チャートにランクインしていた。イスラエルのテルアビブで結成され、前作リリース時にはテルアビブで活動していたが、2023年の夏に活動拠点をベルリンに移した。DIY楽器を巧みに用い、他の人が捨ててしまうようなものから音楽を作り出しているのが彼らの特徴である。
 本作でも個性的な音が溢れている。他に類を見ないDIYの打楽器や弦楽器の音と、ホーン楽器、オルガンなどの柔らかいメロディの音色、催眠的なイエメン音楽、すべてが一体となって中毒性のある陶酔的なサウンドスケープを作り出している。不思議な感覚にハマってしまう。
 タイトル「ミュート」はご存知の通り音を消すこと。距離や言葉、そしてその欠如を探求しているアルバムだとエヤルは言う。現在も続いているイスラエルでの戦争に対し、「我々イエメン系アラブ系ユダヤ人はガザ地区での戦争を非難します。戦争は沈黙であり、指導者の行動は沈黙であり、イスラム教とユダヤ教、あるいはその他の宗教を分断するのも沈黙です。肌の色や生まれた場所、民族性によって人を判断することは、無意味です。」と言っており、戦争に対するメッセージも込められている。実際に、本作最後の曲には曲中に30秒ほどの無音状態(沈黙)が入っている。
 メッセージ性がある作品だが、DIY楽器の素朴な音にほっこりし、豊かで包み込まれるような感覚もある。妥協することなく、冒険的に作られた、とても魅力的な作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

4位 The Zawose Queens · Maisha

レーベル:Real World [2]

 東アフリカのタンザニア、ワゴゴ族のペンド・ザウォセとその姪リア・ザウォセによるデュオ、ザウォセ・クィーンズのデビュー作品。先々月1位になったが今月も上位をキープ!
 ワゴゴ族はタンザニア中央部の丘陵地帯におり、優雅なポリリズムで、ポリフォニーの声楽、そしてフィドルのような弦楽器チゼゼ(chizeze)、指ピアノのような楽器イリンバ(illimba)、パーカッションのンゴマ(ngoma)などの伝統楽器を演奏することで知られている。1990〜2000年代にフクウェ・ザウォセが、世界にその音楽を知らしめた。そのフクウェの娘ペンドと孫娘にあたるリアが、このデュオ2人となる。フクウェは厳格で保守的だったため、かつてバンドでの女性の役割はバックコーラスを歌い、ンゴマの一部であるパーカッションのムヘメ(muheme)を叩くことしか許されなかった。しかし変化はゆっくりと訪れ、2002年から2009年ザウォセ・ファミリーとして若い世代も含めて再結成したとき、女性たちはコンサートでイリンバを演奏した。そして今回初めて、彼女たち二人がデュオとして前面に立ち、リード・ヴォーカルとパフォーマンスをすることになった。
 イギリス人プロデューサーのオーリー・バートン・ウッドとトム・エクセルがプロデュースし、レコーディング、ミックスも行っている。オーリーらと彼女たちを繋げたのが、タンザニアを代表するギタリスト/シンガーのレミー・オンガラの娘アジザ・オンガラで、彼女はタンザニアの伝統を守り世界に発信する活動を行っている。また、タンザニアのバンド、ワムウィドゥカ・バンド(Wamwiduka Band )もゲスト参加しており、タンザニアの伝統音楽の今後も期待できそうだ。
 本作では、伝統楽器だけではなく、現代の電子楽器との融合も行われている楽曲もあり、伝統的なサウンドがより印象強くなっている。そして、二人のハーモニーと伸びやかな歌声、催眠的な繰り返しがとても気持ち良い。イリンバの音色が二人を大きく包み込んでいて、その中で伸び伸びとダンサブルに歌っている姿が想像できる。全世界のファンが待ち焦がれていただろう作品だ。

3位 Nusrat Fateh Ali Khan & Party · Chain of Light

レーベル:Real World [-]

 パキスタン出身イスラム教神秘主義スーフィズムにおける儀礼音楽カッワーリーの歌い手として世界的に有名なヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの作品。彼は1997年に亡くなったが、この度新たな録音が見つかりリリースされることとなった。
 西洋の多数の聴衆の前で公演した南アジアで最初の歌手のひとりであり、1988年マーティン・スコセッシ監督の映画『最後の誘惑』のサウンドトラックに参加、これをはじめとしたいくつかのアルバムやサウンドトラックに参加し西洋や日本での知名度を上げることとなった。カッワーリーを西洋や日本の聴衆に知らしめた彼の功績は非常に大きい。
 本作は、1990年に Real World Records のスタジオで行われたセッションからの未発表音源で、まさに西洋に名を知られはじめた頃、彼の絶頂期ともいえる頃の音源。ヌスラットのメロディックでパワフルなボーカルが、タブラ、ハルモニウムの音色とコーラスと重なり、歌声のエネルギーや、メロディックな妙技が堪能できる。
 非常に素晴らしいパフォーマンス!未発表音源が発見されて本当に良かった!

2位 Bassekou Kouyate & Amy Sacko · Djudjon, l’Oiseau de Garana

レーベル:One World [1]

 マリのグリオミュージシャン、バセクー・クーヤテ(Bassekou Kouyate)と、その妻エイミー・サッコ(Amy Sacko)の夫婦名義の最新作。先月1位だったが今月も2位と上位をキープ!
 バセクーは西アフリカの伝統的な弦楽器ンゴニの名手で知られており、アリ・ファルカ・トゥーレ、トゥマニ・ディアバテ、ポール・マッカートニーやU2など多くのアーティストと共演している。また、音色が異なるンゴニを演奏するバンド、ンゴニ・バ(Ngoni ba)を2005年に結成、世界各地のフェスでも演奏している。そのバンドのヴォーカルは妻のエイミーで、エイミーは「マリのティナ・ターナー(!)」と称されマリの人気シンガーの1人。
 本作は、バセクーの故郷であるガラナ村(マリのセグーから60キロ離れたニジェール川の辺りにある他民族村)で録音、息子のマドゥ・クーヤテ(Madou Kouyate)も参加した。バセクー自身と友人のイブラヒム・カバ(Ibrahim Kaba)が共同プロデュースした作品。彼らのルーツを辿り、普遍的な物語を伝えることに重点を置いた自然なサウンドに仕上げた。そのためか、ンゴニの音色やパーカッション、エイミーの歌も実にシンプルで心地よい。
 インストだけの楽曲もあるが、歌はマリの言語バンバラ語とフラニ語で歌われている。アルバム最後の曲「Macina」はバセクー自らが朗読のような形で思いを綴っている。言葉は理解できなくとも、魂から何か伝わってくるものがある。まさにマリのブルースと言える作品。彼らの故郷への旅に同行しているような気分にさえなる。

1位 Buzz’ Ayaz · Buzz’ Ayaz

レーベル:Glitterbeat [4]

 キプロスのバンド、ムシュー・ドゥマニが2022年夏に来日、日本のワールド・ミュージック・ファンに大きな感動を与えたことは記憶に新しい。そのの創設者であるアントニス・アントニウが新たに結成したバンド、バズ・アヤズ(Buzz' Ayaz)のデビュー作。先月4位で初登場し、その後さらに上位へランクインすることを予想していたが、やっぱり1位に!ですよね〜、という感じ。
 ヨーロッパ各地からの観光地として知られているキプロス島は、ギリシャ系住民とトルコ系住民の間で政治的な緊張状態にあり、島は分断されている。しかしエリアによっては、二つの文化が混ざり合い互いに文化的な交流が行われている。このバンドは分断されたキプロスが音楽的に融合することを目的に結成され、分断された両地域から集まった4人のメンバーにより構成されている。アントニスのエレクトリック・ジュラ(ギリシャの弦楽器)、トルコ系のドラム、ギリシャ系の鍵盤奏者によるベースシンセ/オルガン、キプロスに移住してきたイギリス人によるバスクラリネットという編成。
 60〜70年代のロックやサイケデリックオルガンがベースとなり、ギリシャとトルコが融合したメロディックなサウンドはとても重厚で、幻想的、催眠的に繰り返されるグルーヴ感がクセになる。ギリシャとトルコが融合した現代のキプロスのサウンドとも言え、彼らの目的が見事に成功している作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

(ラティーナ2024年10月)

↓9月のランキング解説はこちら。


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