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[2023.12]ミレイ新大統領いよいよ発進!!!

文●本田 健治

新大統領ミレイの当選から移行期間

 今年のアルゼンチンは、ようやくコロナも終わって全ての活動が復活したと思ったら、次は大統領選挙のニュースに振り回された年だったようだ。リベルター・アバンサ(自由前進)という政党は2021年にはじめて議席を持ったアルゼンチンでは若い政党だが、そのはじめて右一本の政党のハビエル・ミレイ候補という、歴史的には急進主義やペロニズムと無縁の政党の候補者が、ブエノスアイレスで勝利することなくPASO(予備選挙)で勝利した最初の候補者となった。
 そして、10月22日の第一回総選挙では、中間選挙結果に驚いたブラジルなど左派政権の国からの援助も受けて、今までで人気最低のアルベルト政権が起死回生、必死で打ち出したセルヒオ・マサがや有利で勝利の結果となったが、次は「変革のために共に」のブルリッチをしのいでミレイが第二位。対立候補に選出された。まぁ、とにかく派手なパフォーマンスで頑張ってきたミレイもここまでかと思っていたが、ブルリッチの後ろにいるマクリがミレイに1票と公言していたとおり、「変化のために共に」の前大統領マクリが第三位に落ちていたベルリッチとミレイを組ませることになった。もちろん簡単な事ではなく、「変革のために…」は分裂し、ブルリッチはミレイの応援に廻ることに。結果、「変革の…」を構成していた3つの設立政党の内の二つと中間派は実は分裂状態でこの総選挙最終戦に挑んでいたわけだ。

ミレイ政権の閣僚たち

 そして、11月19日の総選挙最終戦では、ミレイ候補が新大統領に選ばれた。さて、それから12月10日の大統領就任式までの間の移行期間にミレイが行ったことは、結構スピーディで、誰もが「用意周到?」と思えるようなスピーディな動きだった。まず、内閣メンバーの選定、マサを支援していたと言われるアルゼンチン出身のフランシスコ法王へ電話で挨拶し、IMFのゲオリゲバ代表に連絡をとり、祝福を受けた。ロシアや中国よりだった今までと違って、アメリカ寄りの姿勢を打ち出すミレイ大統領の誕生は、ゲオリゲバ代表にとっては大歓迎だ。その後信頼するルイス・カプート(経済大臣)と、ニコラス・ポッセ(内閣官房長官)を伴ってアメリカ視察旅行。ビル・クリントンや、クリス・ドット元上院議員らをた訪ねたり、ジョン・カービー報道官らと食事を共にした。11月29日になって、内閣を発表。ニコラス・ポッセ(内閣官房長官)、ディアナ・モンディーノ(首相)、サンドラ・ペトベロ(人的資源)、ルイス・ペトリ(国防)、ルイス・カプート(経済)、ギジェルモ・フェラーロ(インフラ)、ギジェルモ・フランコス(内務)、マリアーノ・クーネオ・リバロナ(司法)、マリオ・ルッソ(保健)、パトリシア・ブルリッチ(治安)の閣僚が決定。大統領選挙で対立したベルリッチ(大統領)とペトリ(副大統領)が内閣に取り入れられたことは、アルゼンチンの政治史上ほとんど初めての事態という。

ミレイ大統領と閣僚たち

「金がない」「必要かつ緊急の政令」

 ミレイは、国家主席として最初の演説で使った「金がない」は、日本だったら今年の流行語大賞?になるほど。アルゼンチンはもちろん、世界に受けたが、実際その通りで、今までは借金の直後から借りた金の切り崩しだけで、約束はどんどん遠のく話ばかりだったから、この悪いスパイラルを断ち切るために、先ず現実的な「必要かつ緊急の政令」(DNU)を次々と発表した。要は、金がないものがとるべき当たり前の姿で物を考えるということ。オフィシャル・レートと差の大きいブルーレートの存在が国に金が入ることを阻止しているからと、ドルのオフィシャルを切り下げて為替レートの差をなくすこと。これは国にドル収入をもたらし、カントリー・リスクを低下させる良い方法だし、続いて国営企業の大幅な民営化。公共事業、補助金、地方交付金の大幅削減は、カプート大臣が表明したミレイ政権の最初の経済対策だった。大統領になったからにはパフォーマンスもいらないからか、国会議員としての最後の給料をSNSでくじ引きで配布したりした上で、TVに出るときも今までのようなパフォーマンスではない普通の顔だし、やろうとすることも結構仲間と揉んだ施策が並ぶ。

オフィシャルとブルー・レートの差のない話

 丁度この就任式のニュースを日本で聴いて、エセイサ空港朝に降り立ったのが13日朝だった。いつもは空港の出口にあるタクシーのチケット売り場に向かうのだが、事前の情報によると、なんだか訳がわからない価格になっているから、外に出て、直接取引した方が良い、と言う。確かに優しく寄ってきた手配屋は、センターのホテルまで、とにかくドルに換算すると45ドル近い。今日からオフィシャルが切り下げられて、下手するとブルーよりも下がるんじゃないか、と笑いつつ根拠のない価格を言う。何人かに聞いても高いので、取りあえず一呼吸と、煙草を一服していると、真面目そうな運転手の叔父さんが寄ってきて、急に20ドル位の値段を言ってきた。すぐに手を打ってホテルヘ。車の中でその運ちゃんに聞くとオフィシャルがついこの間までせいぜい350ペソくらいだった物が、一気に820ペソになったらしい。ペソだけで考えると気の遠くなる上がり方だ。普段のチップが1000ペソにもなるということらしい。

 例えばホテルの値段にも影響が。普通は予約したときの価格で決まるのは当然だが、さすがに予防線が張ってあって、小さな文字で実際に払う時の状況で決まるとある。私は元々、このホテルには特別値段を持っているが、今回は駄目だ、と。ということは倍以上の値段で、クレジットカードを使うと、日本で言う21%の消費税がかからないからこの方が良いとか、色々よく考えてくれた結果でも、それでも今までの2倍の金額になる。ところが到着して3日間はそれどころではない仕事が待っていたので、ゆっくり話したのが金曜日。土日を待って月曜からホテルを変えることに。まだ結構良くて安いホテルもある。要するにこの為替への対応はまだ決まっているわけではないらしい。この時に廻ったホテル、実は値段の割に良いホテルが沢山。今後は使えそうだ。

選挙中より穏やかにに見えるハビエル・ミレイ新大統領

ミレイの政策の数々 : ハイパーインフレを終わらせること..だが

 こちらに来て、就任式の様子なども実際にビデオで何度も流されるから目に出来た。
 12月10日アルゼンチン時間11時58分、ハビエル・ミレイがアルゼンチン国の大統領として、アルゼンチン国の代議員会にて宣誓。カサ・ロサーダヘのキャラバンの最中にミレイに向かってガラス瓶を投げた暴漢がいたくらいで、それもすぐ逮捕、ほぼ予定通り就任式は進行した。大統領就任と同時に、アルゼンチンの新政権が実質的な経済規制緩和を実施するための必要性・緊急性の法令(DNU)に署名、省庁の数を19から9に減らす姿は世界中に配信され、さらに、財政赤字をゼロにするため、強力な財政調整を伴う超正統派のプログラムを作った、と述べたミレイ大統領は、カプート大臣の発表に続いて、公式ドルと非公式市場(「ブルー」)の為替レートとの差を縮小し、中央銀行によるドル購入の動機付けになるなどのデータについて言及している。「中央銀行をぶっ潰す」のは議席数から見てもすぐには無理と判断したのか、取りあえずは出来ることから、なのだろう。
 大統領は、今回発表された措置には国民や民間部門の大きな努力が必要であることを認めたが、これらの困難はすべて「一過性のもの」であると述べ、ここから数ヶ月後にその忍耐は最大限になる日が来るかもしれないが、必ずその後に、経済が再調整されれば、私たちリバタリアン・リベラルが好まないものをすべて排除し始めるだろう」と締めくくり、「自由万歳、くそ野郎」というよく知られたスローガンを再び叫んだ!「今日、私の最優先事項は、ハイパーインフレを終わらせること」と、新大統領は、ソーシャルネットワークのインスタグラムを通じて語った。現在の成長率ではインフレ率は年間3.678%にもなると計算し、この意味で、ミレイ氏は、ルイス・カプート経済相が今週発表したアルゼンチン・ペソの急激な切り下げを含む経済調整策の第一波を賞賛した。しかし、この急激な発表に驚いているのは、私だけでなく、みんなが右往左往しているのは事実だ。
 その他、ペソの切り下げと公共事業、補助金、地方交付金の大幅削減は、カプート大臣が表明したミレイ政権の「必要かつ緊急の政令」(DNU)だった。この措置は物価と関税に強い影響を与え、ハイパーインフレと社会的寛容の間の微妙な道を歩むことになる。しかし、今年のクリスマスの物価は昨年比200%という数字も発表されている。訳がわからない数字だが、すべてはまだこれからだ。ここの国民も、訳がわからない中、動きようがないのが実情だろうが。いよいよクリスマス後の動きで国会での論戦も始まるから、どうなっていくのか……? 少なくとも1月2月に消費行動が落ちていくのは確実だろう。どうなるのか…、全く誰にも見えていない。

反ピケ・プロトコル

 さて、アルゼンチンの年末というと、もう何十年も反政府、全国からの組合が集合してのデモに翻弄されて大変になる。ある意味、ブエノスアイレスの年末の反政府運動はある種風物詩みたいな物だったが、今年はその意味ではやけにおとなしい。12月20日に国中の組合がブエノスイアレスに集中して大ストライキを行うが、今年は新政権の大統領候補で争ったのに治安大臣に落ち着いたブルリッチが、準備よろしく反ピケの臨時令を発表。まず行ったのは、12月18日。舞台はあのゲバラを産み、アルゼンチン国旗を産んだ中部のロサリオ。アルゼンチン第2の都市だが、このロサリオのあるサンタフェ州が現在麻薬密売組織の被害に揺れているが、ブルリッチは先ず、ここにメスを入れることから治安相としての肩慣らしを行った。「今回は、麻薬組織に宣戦布告し、徹底的に打ちのめしにきた」と発表。国家憲兵隊と強力な捜査官が多数現地入りした。
 ブルリッチは、女性ではあるが、もうマクリ時代から十分治安の面では実績がある。そして、今度は20日、公道での道路封鎖やデモに直面した際の治安部隊の行動指針を発表した。今回、特にあのタンゴダンス世界選手権の行われるディエゴナル・ノルテの車道はほとんど使えないようにし、治安部隊には、あの地域にだけは武器の使用も許したらしい。今度、そんなことが国会で簡単にまかり通るとは思えないし、訴訟も起きるだろう。が、取りあえず、20日は予想を遙かに超えた静けさで終えた。なにしろ、デモの参加者にはここまでは公共交通で来るようにという政令に、言うことを聞かざるを得なかったとも聞く。
 この20日はブエノスアイレスの処置だったが、地方も結構おとなしかったらしい。特にあのゲバラを産みある全国旗を産んだロサリオは現在麻薬の広がりに苦しんでいるが、ブルリッチの今回の予習演習が2日前に行われ、治安部隊の装備もかなり本格的だったと聞く。そして 21日は南米全体で見られる「鍋叩き」(鍋やフライを叩いて更新、または夜中に窓を開けたまま同様にやる)の抗議も行ったようだが、せいぜいそこまで。思ったよりも整然と行われ、静かな幕引きに感じた。

 もちろん、これの評価に対して大きな組合の中には、かなりの強硬論もあるらしく、取りあえずは27日に何かが起きるとか、TVでも報道している。
 しかし、この法案で採択された措置には、国有企業民営化の第一歩、値上げ制限の撤廃、民法・商法の改正、関税法の改正も含まれている。自由主義者のミレイ氏は、毎年200%近いインフレと40%の貧困の中で、経済を成長に戻すために国家を削減し、財政赤字をなくすつもりだと主張した。その昔、ミレイと同じようなヘア・スタイルの大統領をミレイが真似ているという人は多いが、あのカルロス・メネムの最初の大仕事も「強引な」国有企業の民営化だったし、クリスティーナからマクリが引き継いだキルチネル文化センターでも、一晩で700人くらいの幽霊社員を全部追い出した、などの過去がある。

 斯様に、新大統領の動きに一時も目を離せない状況ではあるが、選挙戦で見せた姿よりずっと真摯な態度で仕事を進めるミレイに好感を持った国民が増えているような気もする(今のところ)。まぁ、それは、前がホントに酷すぎたから。ただ、もう明日から来年に賭けては、新大統領自身が最悪のピークは、もう少し後と認めているように、必ず大きな後退局面は現れるはずだし,その時にアルゼンチンの経済や体制を守っていけるのか、誰にもわからない。

どうなる?タンゴダンス世界選手権?

 弊誌の読者の心配は、タンゴ・アーティストたちの動向。もうすでに彼らの多く(特にダンサーたち)はアルゼンチンを離れ、世界中に散らばって活躍しているし、タンゴダンス世界選手権については、マクリの甥のホルヘ・マクリの専権事項だが、支持基盤の「変化のために共に」は、今回の大統領選で分裂含みだし、余談は許さない。聞こえてくるのには、あのディゴナル・ノルテでの極寒の中でのパフォーマンスという考えはすでになく、もう一度ルナ・パークの使用を検討しているとか、どれもまだ「噂」の域を出ていない。とにかく「カット」に生きがいを感じているミレイの文化度は見えてきていないし、その影響がどの程度市の施策に及ぶか?ただ、昨日、有名なラ・チキのTV番組 “ラ・ノーチェ・デ・ムルタ” にはラウル・ラビエと一緒にミレイが参加していたが、ラビエの「ロコへのバラード」の歌にうっとりと聴き入っている新大統領の姿は、タンゴを嫌いな男の姿ではなかったようにも見えた。昨日ラビエ本人から聞いたが、就任式の日、コロン劇場では、そのラビエのタンゴ・ステージが披露されていた。彼の尊敬する(?)メネムは大のタンゴ・ファンだったしねぇ。
 そして、来年に賭けて、いよいよ大事な局面がこれからもしばらく続く……。

 と、ここまで書いたら帰国前の打ち合わせを予定している27日に、訪日メンバーの全員集合が危なくなりそうの報せ。トラック運転手の団体が高速道路を占拠して、ピケを張り、通行を完璧に妨害するという。私も何度も経験があるが、こうなると、前にも後ろにも動けなくなるから最悪だ。やっぱり、だ。で、明後日に日付を変える。一番恐れるのは帰国日のエセイサ空港行き。これは情報をきちんとしておかないと……。

 と、一日過ぎると、ここからは議会がある。アルゼンチンの新政権が実質的な経済規制緩和を実施するための必要性・緊急性の法令(DNU)に署名してからほぼ1週間、すでにその政令への訴訟が相次ぎ、我慢できない組合の反撃が始まった。全て、簡単ではない,数で完全に制覇できていない議会との本気の戦いが始まる。

 と、ここまで書いていたら、TVでは毎日色々ナ変かが伝えられている。まず、石油関係の値上がりで、いよいよ、マサ言っていたバスの問題、最初は値上げではなく、早朝バスを中心に本数を減らすとあったが、あれから2日たって,やはり値上げが発表になっている他、いろいろなところから、反対の声が大きくなってきている。事態が動いている。訴訟も準備されているほか、全国的な規模での抗議活動も発表されているよう。しかし、今も、大統領府から幸せそうなミレイ、ブルリッチらが5月広場の民衆ににこやかに手を振る姿も映し出されている。考えてみると、メネン大統領の時も全ての国の公的期間を民営化し、1ドル=1ペソに、とやった時には,同様な動きだったなぁ,と思いだしている。違うのは,あの時はまだ政府に金があったが、今はそれがないこと。さて、どうなるか…。

 ミレイ政権になって、最初に発表して世界に配信された国家公務員のカットの作業はすさまじい。最新のニュースに注目してみると、現状を理解するのには,こんな記事が…

「まず、新政権は火曜日、国家公務員の数を34%削減すると発表しているが、緊縮・効率化計画の一環であるこの措置では、公共部門で13,400人の雇用が削減される。マヌエル・アドルニ大統領報道官によると「昨年に行われたすべての契約と人事を見直すつもりだ」と発表。削減されたのは、省庁、事務局、副事務局のレベルである。省庁は18から9へと50%削減された。事務次官は106から54へと49%削減された。事務次官は182から140になり、23%の削減となった。そして、同時に「公共支出削減に関しては、まだ発表すべきことがたくさんある。「象のような規模の国家を存続させ続けることはできないと理解することが重要だ」と彼は付け加えている。

 ミレイ大統領によるアルゼンチン国家改革は、すでに発効し始めている。超右翼が課した300以上の廃止と規制修正を伴う大法令は、官報に掲載されてから8日後の今週金曜日に施行された。しかし、この措置は、承認が必要な議会や、その合憲性を疑問視する約30の上訴が累積している司法における障害を乗り越えなければならない。経済危機は深刻で、社会情勢は活気に満ちている。

 ミレイの必要かつ緊急の政令(DNU)は、議会での審議なしに法律を廃止し、国家規制を撤廃し、公営企業の民営化を可能にし、ドル建て経営に門戸を開き、労働市場と医療制度をより柔軟にするプロセスを開始する。この仕組みは、議会での審議を待つことができない緊急の案件について、行政府が法律の可決や改正を行えるようにするためのものだ。しかし、憲法学者の間では、ミレイが署名した政令はそうではないとの意見が一致しており、大統領が立法権を独り占めしたと非難している。」(El País紙)

 とはいうものの、このくらいやらないとこの国が立ちゆかなくなるし、実際立ちゆかなくなっているのも事実で,国民も今のところ、この事態をじっと眺めている状態、と言えそう。しかし、襲うようにやってくるインフレの波を更に被らなければならないのも事実で,国民がどこまで辛抱できるか…だろう。


(ラティーナ 2023年12月)

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