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[2024.11]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年11月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 V.A. · Super Disco Pirata: De Tepito para el Mundo 1965-1980

レーベル:Analog Africa [-]

 アフロ系のレア音源を紹介するドイツの復刻専門レーベル Analog Africa からリリースされたラテン・プロジェクト・シリーズのコンピレーションアルバムがランクイン!
 1980年代、メキシコ・シティのレコード販売業者レコード収集家のグループが手を組み、ペルー、エクアドル、コロンビアなどから、レアで人気の高いヒット曲を集めたビニールレコードを違法製造していた。深夜勤務中に僅かな枚数をこっそりプレスし、安価で販売していたそうだ。それが「ピラータ(Pirata)」と呼ばれる海賊盤。当時「ソニデロ(sonidero)」(メキシコシティ発祥の大衆的な音楽ムーブメントで、2023年メキシコシティの無形文化遺産としても登録された)真盛りなこともあったため、その海賊盤は貧困層をはじめ多くの人によって聴かれた。秘密裏に制作されている海賊盤であるため、当初はシンプルなジャケットに架空のレーベル名が印刷されていただけだったが、徐々に人気を集めることとなり毎月1枚のペースでリリースされることになった(それもすごい!)。ジャケットも興味を惹くデザインになり、お店のチラシやポスターにも使われるようになった。それも「ソニデロ」の要素の一つに含まれる。
 本作は、その「ピラータ」から選ばれた23曲のトロピカルなダンスチューンを再構築した作品となっている。もちろんジャケットも当時の内容を反映させている素敵なジャケット!(下述国内盤では、その貴重な写真やデザインなどが掲載されているそうなので、ファンの方は要チェックです!)
ビージーズやベートーベンの楽曲をオマージュしている曲もあって、とても面白い!この海賊盤「ピラータ」が栄えたことにより、大衆の耳が肥えていくというのは何とも皮肉なことだが、当時のメキシコ・シティを沸かせていたのかと思うと非常に興味深く、それがたっぷり堪能できる作品。これはいいです!

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

19位 K.O.G. · Don’t Take My Soul

レーベル:Heavenly Sweetness [18]

 ガーナ出身のミュージシャン、K.O.G(Kweku of Ghana)ことクウェク・サッキー(Kweku Sackey)のソロ名義としては2枚目となる作品。イギリス・シェフィールドとガーナを拠点に活動しており、アフロ・フュージョングループ、K.O.G & The Zongo Brigade のリーダーでもあり、アフリカン・ダンスミュージックユニットONIPAのシンガー兼フロントマンも務める。作曲家、ヴォーカリスト、パーカッショニスト、アレンジャー、アートディレクター…etcとマルチな才能を持つミュージシャン。
 本作は彼自身によるプロデュース作品で、ロンドンのジャズ・ピアニスト Pat Thomas、イギリス人ラッパー/詩人/ミュージシャン Dizraeli、ガーナ人ラッパー Fameye などがゲスト参加している。ガーナで生まれ育ち、成人後はイギリスで過ごした彼にとって、自身の音楽と個性を形成してきた多様な影響を吸収し、組み合わせ、洗練させてきた生涯の集大成とも言える作品。アフロビートとハイライフが根底にあり、キャッチーなメロディ、高速ラップ、インディー・ジャズ、そしてルーツであるアフリカ伝統音楽を感じさせる楽曲もあって、多様な音楽が反映、融合されている。とても洗練されたアレンジとなっており、アルバム全体を通してカッコいい!

18位 Seckou Keita · Homeland (Chapter 1)

レーベル:Hudson Records [-]

 セネガル出身、現在はイギリス在住のコラ奏者セク・ケイタ(Seckou Keita)の最新作。近年はイギリスのハープ奏者カトリン・フィンチや、キューバ出身のピアニストオマール・ソーサなどとのデュオ、オーケストラとの共演したリリース作品が多かったが、本作は久しぶりにソロ名義の作品。
 タイトルは「故郷」を意味する。「故郷」とは何かと問いかけ、自身のアイデンティティ、イギリスという第二の故郷と母国セネガルとの関係を探求し本作で表現している。セネガル、イギリス、ベルギー、ドイツの4か国で2022年頃から録音・ミックスされたものが収録されており、マンディンカ語、ウォロフ語、英語、フランス語の4言語が使われている。
 アルバム冒頭とエンディングには、マンディンカ文化の継承者でありグリオであるアブドゥライ・シディベによる瞑想的な口調で語るパフォーマンスが置かれ、グリオのルーツを持っているセクならではの表現となっている。
 本作では他にも、セネガルのヒップホップグループで現在はフランスを活動拠点としている Daara J Family、英国の詩人ハンナ・ロウ、ゼナ・エドワーズも参加している。セネガルの伝統的なリズムを、アフロポップスやヒップホップ、さらにはスポークン・ワードの要素と融合させ、国境やジャンルを越えた作品。セネガルの豊かな文化を称えると共に、グローバル化した世界で生きることの課題や可能性について考えさせる内容となっている。伝統的でありながらも現代的で洗練され、そしてコラの美しい音色と彼の柔らかい歌声がなんとも心地よい作品。名盤です。

17位 The Zawose Queens · Maisha

レーベル:Real World [4]

 東アフリカのタンザニア、ワゴゴ族のペンド・ザウォセとその姪リア・ザウォセによるデュオ、ザウォセ・クィーンズのデビュー作品。7月に彗星の如く上位にランクインして以来まだランクインしている。
 ワゴゴ族はタンザニア中央部の丘陵地帯におり、優雅なポリリズムで、ポリフォニーの声楽、そしてフィドルのような弦楽器チゼゼ(chizeze)、指ピアノのような楽器イリンバ(illimba)、パーカッションのンゴマ(ngoma)などの伝統楽器を演奏することで知られている。1990〜2000年代にフクウェ・ザウォセが、世界にその音楽を知らしめた。そのフクウェの娘ペンドと孫娘にあたるリアが、このデュオ2人となる。フクウェは厳格で保守的だったため、かつてバンドでの女性の役割はバックコーラスを歌い、ンゴマの一部であるパーカッションのムヘメ(muheme)を叩くことしか許されなかった。しかし変化はゆっくりと訪れ、2002年から2009年ザウォセ・ファミリーとして若い世代も含めて再結成したとき、女性たちはコンサートでイリンバを演奏した。そして今回初めて、彼女たち二人がデュオとして前面に立ち、リード・ヴォーカルとパフォーマンスをすることになった。
 イギリス人プロデューサーのオーリー・バートン・ウッドとトム・エクセルがプロデュースし、レコーディング、ミックスも行っている。オーリーらと彼女たちを繋げたのが、タンザニアを代表するギタリスト/シンガーのレミー・オンガラの娘アジザ・オンガラで、彼女はタンザニアの伝統を守り世界に発信する活動を行っている。また、タンザニアのバンド、ワムウィドゥカ・バンド(Wamwiduka Band )もゲスト参加しており、タンザニアの伝統音楽の今後も期待できそうだ。
 本作では、伝統楽器だけではなく、現代の電子楽器との融合も行われている楽曲もあり、伝統的なサウンドがより印象強くなっている。そして、二人のハーモニーと伸びやかな歌声、催眠的な繰り返しがとても気持ち良い。イリンバの音色が二人を大きく包み込んでいて、その中で伸び伸びとダンサブルに歌っている姿が想像できる。全世界のファンが待ち焦がれていただろう作品だ。

16位 Sinimuso · Nouskaa Sisaret

レーベル:Sinimuso [-]

 マリ国内のさまざまな音楽的背景を持つ女性ミュージシャンと、フィンランドの2人の女性ミュージシャンにより2022年に結成された女性だけのユニットSINIMUSO(シニムソ)のデビュー作。ユニット名はバンバラ語で「未来の女性たち」を意味している。
 フィンランドのフィン・ウゴル語族や北欧の音楽の伝統にしっかりと根ざしているカンテレ(フィンランドの伝統的な撥弦楽器)奏者、マルヨ・スモランダー(Marjo Smolander)はセネガルやマリで演奏する機会があり、そこから西アフリカの音楽に惹かれ始め、バマコの音楽学校にも留学。留学中に様々な音楽や、ミュージシャンたちと出会った。
 現在のマリでは、異なる民族間の交流や異文化交流は一般的だが、女性ミュージシャンの立場は依然として弱いままだそう。この音楽プロジェクトによって、女性ミュージシャンたちにネットワークを広げる機会や、互いに学び合う場を提供することを目的としている。2022年に開催された「World Wide Women〜国境を越え、未来を築く女性音楽家たち」というプロジェクトの一環としてこのユニットが生まれた。
 フィン・ウゴル語族のルーンソングとカンテレのメロディが、サハラ・ブルースやグルーヴィーなバンバラのビート、マリの木琴バラフォンが奏でるメロディとミックスされている。マリとフィンランドという文化が全く異なる2国の伝統音楽が本作で見事に融合している。そしてプロジェクトの目的でもある女性の生き方や、彼女たち自身と世界のために作りたい未来に触れるトピックを歌詞に反映している。
 国境を越えたコラボレーションで、大変意義のある活動を心から応援したい。とても面白い作品です。

15位 Driss El Maloumi Trio & Watar Quintet · Details

レーベル:Contre Jour / Zig Zag World [12]

 「ウードの魔術師」とも称されるモロッコの実力派ウード奏者、ドリス・エル・マルーミ(Driss El Maloumi)の最新作。自身のトリオと弦楽五重奏によるコラボ作。トリオは、ドリスのウードと、ドリスの弟サイード・エル・マルーミ(Saïd El Maloumi)とラフシーン・バキール(Lahoucine Baqir)のパーカッション編成。ソロ名義作の前作『Aswat』にも参加していたお馴染みのメンバー。そこに、二丁のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの弦楽五重奏が加わった豪華な編成によって演奏されている。
 ドリスは、子供の頃から映画で耳にするオーケストラのサウンドに魅了されていた。そして以前から、アラブのクラシック音楽と西洋のクラシック音楽を融合させることを夢見ていたそうだ。今回はまさにそれが実現した内容となっていて、ウードと中東のパーカッション、西洋楽器という異なる二つの世界が見事に美しく融合されている。
 本作は、2年以上にわたる集中的な作業と実験の成果で制作されたそうで、ウードと西洋の弦楽器、また西洋の弦楽器とアラブのパーカッションの組み合わせが絶妙で、美しい世界が表現されている。彼の夢が叶った美しく繊細な作品。

14位 Meridian Brothers · Mi Latinoamérica Sufre

レーベル:Les Disques Bongo Joe [9]

 コロンビア・ボゴダで1998年に結成された前衛的バンド、メリディアン・ブラザーズの最新作。サルサやクンビア、バジェナートなどカリブのリズムにサイケデリックなエレクトリックサウンドを組み合わせ実験的な音楽を制作しているグループ。
 本作は、熱帯のラテンにおいて、エレクトリック・ギターの未開拓の可能性を探求したいという欲求から生まれたコンセプトアルバム。アフリカの大衆音楽であるハイライフやスークースで使われるギターの音色やリズムからインスピレーションを得て、それらのラテン音楽と融合させているユニークなアルバム。サイケデリックの中に、ハイライフやアフロビートも感じられ、もちろんクンビア、キューバなどラテンも味わえるという不思議な作品。他に類を見ない革新的なサウンドで、彼ら独自の世界観を大胆に表現している傑作!

13位 Jyotsna Srikanth · Carnatic Nomad

レーベル:Naxos World [13]

 イギリス系インド人のヴァイオリニスト、ジョツナ・スリカンス(Jyotsna Srikanth)の最新作。インド南部カルナータカ州の州都ベンガルール生まれで、母親がカルナティック音楽の音楽家/教師であったため幼い頃から英才教育を受けてきた。結婚してロンドン移住し、世界的な音楽イベントに参加するなどし、欧米にカルナティック音楽の認知を広める活動を行なっている。
 彼女は、主に15~18世紀のカルナティックの作曲家による作品を解釈し、伝統的なラーガ(インド古典音楽の旋法)の基本的な音階であるメラカルタ(Melakarta)に由来する美しいラーガの数々を表現している音楽家。インド古典ヴァイオリンと西洋ヴァイオリンの両方をきっちり学んだ彼女の卓越した運指テクニックと、感情を含んだ音楽的表現を融合させている。
 本作は、彼女が10年以上前にヨーロッパで6ヵ月にわたって15カ国で行った大規模なツアーがルーツとなっている。ツアーで行った選りすぐりの楽曲を二人の南インド人の打楽器奏者と共に再演した音源が収録されている。全7曲だが、1曲あたりの時間が長いものもある。カルナティック音楽の伝統的で複雑な音階、リズムやテクニックなどがたっぷりと堪能できる。ヴァイオリンと、ムリダンガムやカンジーラ(フレームドラム)など南インドの打楽器が、呼応しつつ息ピッタリの演奏に度肝を抜かれる。

12位 África Negra · Antologia Vol. 2

レーベル:Les Disques Bongo Joe [15]

 赤道付近に位置するアフリカの島国サントメ・プリンシペのグループ、África Negra のアンソロジー作品の第二弾。第一弾は2022年4月にリリースされ、本チャートに5ヶ月間ランクインしていた。今回は、ツアーマネージャーが残していたというスタジオテープからデジタル化された未発表音源の中から13曲を厳選し、リマスタリングした作品。前作リリース時にその情報が出ていて大変楽しみにしていたが、ようやくリリース!
 バンドは1974年に「Conjunto África Negra」として結成された。サントメ・プリンシペがポルトガルから独立した後、彼らはサウンドにさらにアフリカの要素を加えた。1976年ジョアン・セリアがヴォーカルとしてバンドに参加、軽快なリズムと優雅なハーモニーで最も成功した時代が始まった。何度かのメンバーチェンジを経て、バンドは1996年に解散。しかし、2008年より再び活動を再開、それ以来3枚の新作アルバムを発表し、現在もツアーを続けている。2023年にはヴォーカルのジョアン・セリアが死去し、サントメ・プリンシペで国葬が執り行われた。国葬が行われるほどの人だということは、このバンドがサントメ・プリンシペで最も重要で影響力のあるバンドであることを証明している。
 本作はそのジョアンへの追悼の意味も込められており、第一弾同様、サントメ・プリンシペ独自のPuxa(プシャ)と呼ばれる音楽、またプシャだけでなくルンバ、プシャとルンバが融合したエネルギッシュで陽気なリズムが堪能できる。エレキギターで奏でるキャッチーなメロディがとても心地良く印象的。

11位 Vigüela · We

レーベル:Mapamundi Musica [7]

 スペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身のユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。2022年リリースの前作『A la Manera Artesana』も本チャートに長期間ランクインしていたが、本作はそれ以来で10作目となる作品。以前は5人組だったが、現在は4人で活動しているようだ。スペインの伝統音楽の遺産を探求し続け、それを現代に再構築し世界的に発信しているグループ。
 本作でも、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャなど、スペインの伝統音楽が収録されている。彼らの祖先が不完全なまま残した古代の音楽言語を復活させる、というバンドのコミットメントが見事に反映されている。ギターや伝統的な民族楽器から、生活雑貨の瓶やフライパンまでも楽器として演奏、生活に根付いていた伝統音楽を演奏している。そして手拍子などを交えながら、力強くストレートに歌っているのがとても印象的。

10位 Lo’Jo · Feuilles Fauves

レーベル:Yotanka / Integral [-]

 1982年フランスで結成されたベテランユニット、Lo'Jo の最新作。フランスの地方公演から始まり、ヨーロッパツアー、そして最終的にはアフリカやアメリカなどを含む世界ツアーをも行ったグループ。その様々なフェーズの中で、多くのミュージシャンが参加してきたが、現在は男性3人、姉妹の女性2人の混成5人組で活動している。創設メンバーであるデニス・ペアン(Denis Péan)、 リシャール・ブロウ(Richard Bourreau)の二人は現在も所属している。
 彼らの音楽はまさにワールド・ミュージックで、パンク、ジャズ、ロックから派生した音楽、そしてシャンソンなどフランスの音楽はもとより、ジプシー、アフリカなど世界のあらゆる音楽ジャンルやリズムを要素にした楽曲を創り、演奏している。本作でもそれは表現されており、ピアノ、ヴァイオリンなど西洋の楽器も使われヨーロッパの音楽を感じながら、ンゴニの音色も聞こえアフリカの要素も感じられる、グローバルなサウンド。
 また、コンゴ民主共和国のバンドで、昨年SUKIYAKIフェスで来日したJupiter & Okwess、レユニオン出身でフランスで活動しているアコーディオン奏者ルネ・ラカイユ(René Lacaille)、ハイチ系カナダ人のSSWメリッサ・ラヴォー (Melissa Laveaux)もゲストで参加。彼らの世界観に彩りを添えている。
 姉妹メンバーのハーモニーがとても息ぴったりで素晴らしく、そこにデニスの低音ヴォーカルが重なるとインパクトが大きくなる。幻想的で妖艶、アルバム全体に陰影が感じられ、彼ら独自の多様な音楽世界がたっぷり堪能できる作品。

9位 Ruşan Filiztek · Exils

レーベル:Accords Croisés [6]

 トルコ南東部の都市ディヤルバクル出身のクルド人ミュージシャン/サズ奏者/歌手のルシャン・フィリステックの最新作。2021年にソロデビュー作をリリースしたが、本作はそれ以来2作目となる作品。
 幼い頃父親からサズを習い、青春時代はイスタンブールで過ごし、その後シリアやイラク、アンダルシアからヨーロッパまで音楽を通して旅をし、2015年にアルメニア人、トルコ人、クルド人が共存するパリのポルト・サン・ドニ地区に辿り着く。パリのソルボンヌ大学で民族音楽学の修士号を取得し、幅広い演奏活動や様々なミュージシャン達とコラボレーションを行い、現在はパリで活動している。
 本作タイトルは「亡命」を意味し、彼のこれまでに音楽的、人間的な探求を反映した作品となっている。フラメンコ・ギタリストのフランソワ・アリア、パーカッショニストのファン・マヌエル・コルテス、ケルトのフルート奏者シルヴァン・バルー、アルメニアのドゥドゥク奏者アルチョム・ミナシャン、ヴィオラ奏者のマリー=スザンヌ・ドゥ・ロワ、ギリシャの歌手ダフネ・クリタラス、フラメンコ歌手のセシル・エヴロット、ジャズ・ベーシストのレイラ・ソルデヴィラとエムラー・カプタンらの友情が織り成す作品となっている。
 まだ全作は聴けていないが、上記動画はフラメンコとのコラボレーション。フラメンコギターとクラップ、そしてサズが入り、楽曲は中東音楽とフラメンコが融合しているのがお見事!

8位 Justin Adams & Mauro Durante · Sweet Release

レーベル:Ponderosa Music [-]

 イギリスのギタリスト/作曲家のジャスティン・アダムズ(Justin Adams)と、イタリアの伝統音楽グループ CanzionIere Grecanico Salentino(CGS)のバイオリニスト/歌手/パーカッショニストであるマウロ・デュランテ(Mauro Durante)によるデュオ2作目。2021年にリリースされたデュオ1作目『Still Moving』は、本チャートに5ヶ月もランクインしていて高評価だった。その前作のリリースワールドツアーによって形付けられ本作の制作へと繋がったそうだ。
 前作同様に骨太のロック、砂漠のブルース、そしてデュランテの故郷である南イタリア・プーリアの伝統音楽タランタが散りばめられているが、前作と異なる点は女性ヴォーカルのゲスト参加により、華やかな印象を与えていること。デュランテと同じCGSのメンバーのアレッシア・トンド(Alessia Tondo)、先月まで本チャートにランクインしていたモロッコのバンド Bab L’ Bluz のフロントウーマン、ユスラ・マンスール(Yousra Mansour)、ニューヨークのロック・ソウル・グループ Faith NYC のシンガー兼ベーシスト、フェリーチェ・ロッサー(Felice Rosser)が参加している。それぞれが異なるジャンルで活躍している実力派のミュージシャンだが、ジャスティンとマウロの手腕と化学反応により見事にそれぞれの世界観を表現している。多様な音楽がうまくまとめられた圧巻の作品。

7位 Ayom · Sa.Li.Va

レーベル:Ayom / Believe [14]

 地中海のアイデンティティを持つ音楽家たちのユニット Ayom の2作目となる作品。バンド名はアフリカ系ブラジル人のカンドンブレに登場する「音楽の神」を意味する。先月14位で初登場し、今月は7位と大きく飛躍!
 ヴォーカルとパーカッション担当のブラジル人ミュージシャン Jabu Morales が2008年にバルセロナに移住し、イタリア人アコーディオン奏者Alberto Becucci、ギリシャ系イタリア人のパーカッショニスト Timoteo Grignani と出会ったことからこのプロジェクトが始まった。その他のメンバーは、アフリカのグルーヴとフラメンコを得意とするアンゴラ人ギタリストRicardo Quinteira、アンゴラ人ミュージシャン兼DJの Walter Martins、さらに、ブラジル音楽とアフロ音楽を専門とするベーシスト Francesco Valente。また本作のプロデュースはブラジル人パーカッショニスト/プロデューサーで、ベンジャミン・タウブキンなどとも共演経験のあるギリェルミ・カストルッピ(Guilherme Kastrup)が担当し、国際色豊かな面々による作品。
 ブラジルのフレーヴォやマラカトゥ、アンゴラのセンバ、カーボベルデのフナナーなど各国の伝統的な音楽と、メンバーが現在住んでいるバルセロナやポルトガルなどヨーロッパのグルーヴがうまくミックスされていてとても魅力的なサウンド!カンドンブレのオリシャの名前が付けられている楽曲もあって、カンドンブレがベースにあることがうかがえる。
 フレーヴォの楽曲にはブラジル人歌手のジュリアナ・リニャレス(Juliana Linhares)、センバの楽曲にはアンゴラのセンバを長年歌っている歌手パウロ・フローレス(Paulo Flores)、イタリアの50年代からの名曲を2017年のユーロヴィジョンで優勝したポルトガル人歌手サルヴァドール・ソブラル( Salvador Sobral)がゲストで参加している。
 タイトル『SA.LI.VA.』は、「SA」は「sagrada(神聖なもの)」、「LI」は「liberdade(自由)」、「VA」は「valentia(勇気)」の頭文字をくっつけたもので、精神性や自由、勇気をテーマにしたことを表している。
 我々を柔らかく包み込むような彼女の歌声がとても心地良く、アコーディオンとの相性がとても素敵。ブラジル音楽ファンだけでなく、ポルトガル語圏の音楽が好きな人にはたまらない作品!とてもいいです!

6位 Afro Celt Sound System · Ova

レーベル:Six Degrees [-]

 現代のワールドミュージック・シーンの先駆者の1つとも言えるグループ、アフロ・ケルト・サウンド・システム(Afro Celt Sound System)の最新作。1995年結成、メンバーは多国籍で、ケルト音楽のメロディと西アフリカの伝統音楽のリズムを現代的に融合させ革新的な音楽を作り上げている。アルバムの売り上げはトータル150万枚を超え、これまでに2度グラミー賞にノミネートされ、世界中でツアーを行っている。
 グループ創設者であるサイモン・エマーソン(Simon Emmerson)が昨年3月に亡くなってしまったが、亡くなる前からすでに構想は持っていて、まさに本作が彼の遺作となってしまった。彼亡き後も残ったメンバーでグループは存続することがサイモンの希望であった。サイモンへの追悼も込めてのリリースで、リリースツアーも行われることが決まっている。
 タイトル『OVA』は、古代ケルト人が信仰していた宗教ドルイド教の用語である「ovate」の略語を示している。彼らの過去のアルバムにも、O、V、Aの3文字が絡み合ったロゴが使われている。
 ケルトとアフリカそれぞれの楽器が使われ、うまい具合に融合されている。その他にもインドや中東の要素も加わっている印象を受けた。楽器の音色や熟練のヴォーカルを活かしつつ、現代のテクノロジーも程よく絶妙にブレンドされているのが素晴らしい。アルバム全体の世界観はさらに壮大なものになっている。彼らの約30年におよぶキャリアの集大成とも言える作品だろう。サイモンから受け継がれた音楽が、今後も聴けることに感謝!

5位 Mari Boine · Alva

レーベル:By Norse Music [-]

 ノルウェーのサーミ人歌手/作曲家、活動家、そして先住民族サーミ族の文化的な象徴でもあるマリ・ボイネのソロ最新作。今年初めにリリースされたノルウェーのジャズ・アーティストとのデュオ作も本チャートに3ヶ月ランクインしていたが、同年内にソロ作を発表し今月5位に堂々初登場!
 先住民族であるサーミ族は、国内での認知度は高まっているがいまだ差別されることがあるという。1990年に国際的にデビューして以来、彼女のルーツとなるサーミ族の伝統歌唱ヨイクと、現代的な電子楽器の要素を取り入れたサウンドを展開し、サーミ族への差別と立ち向かってきた。この最新作でもシンセサイザーなどの電子楽器を最大限に活用した彼女独自のサウンドとなっている。
 本作では、厳格な宗教的環境での幼少期を捨て、活動家としての人生を歩むことを選んだ彼女の人生の一端を本作で表現している。サーミ族の文化や歴史を音楽を通じて世界中の人々と共有するという、彼女の孤独な使命と、彼女自身の旅や人間関係とのバランスを見つめ直す内容。それは、例えば彼女が自身の母親との関係を嘆いた楽曲や、彼女と息子の関係について考えを巡らせている楽曲などとなっている。アルバム最後の収録曲では、サーミ音楽界で有望な若手歌手のエラ・マリエ・ハエッタ・イサクセン(Ella Marie Hætta Isaksen)ともデュエットしている。異なる世代の2人の個性的な歌声が絡み合うのが幽玄的で非常に素晴らしく、サーミ族の連帯、パワーが感じられる。
 楽曲によって歌声を変化させているのがとても特徴的。遊牧民族であるため壮大な自然の中で開放感のある伸びやかな歌声があれば、嘆き悲しむ悲哀の歌声もあり、彼女の表現力に圧倒される。そして、デビュー以降も差別と闘い、革新的な音楽を創り続けている彼女の姿勢にも感服させられる。とても美しい作品。

4位 Seun Kuti & Egypt 80 · Heavier Yet (Lays the Crownless Head)

レーベル:Record Kicks [8]

 現代アフロビートの最高峰、ナイジェリアのシェウン・クティと、彼の父である伝説的カリスマ、フェラ・クティから引き継いだバンド、エジプト80との最新作。ミラノのインディペンデントレーベル、Record Kicksよりリリース。グラミー賞にノミネートされた前作『Black times』から6年ぶりのリリースとなる。
 それだけでも話題作になること間違いないのだが、さらに本作のプロデュースは伝説的ミュージシャン、レニー・クラヴィッツがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、フェラ・クティのオリジナル・エンジニアであるソディ・マルシゼウアー(芸術プロデューサー)がプロデュースを担当。また、ボブ・マーリーの息子でレゲエ界のアイコン、ダミアン・マーリー、ザンビア出身のラッパー/SSWで、現代屈指の革新的な作詞家であるサンパ・ザ・グレートもゲストで参加している。
 本作は、アーティストとして、また活動家として、シェウンの輝かしいキャリアにおける重要な節目となる作品。前作以上にアフロビート全開でグルーヴ感がめちゃめちゃカッコいい!エンターテイメント性だけでなく、彼の行動力と解放の精神を鼓舞するアルバムと言えるだろう!

3位 El Khat · Mute

レーベル:Glitterbeat [5]

 イエメンのルーツを持つミュージシャン、エヤル・エル・ワハーブ (Eyal el Wahab)がリーダーを務めるアラビック・サイケデリア・バンド、エル・カート(EL Khat)の三作目となる最新作。2022年にリリースした前作も本チャートにランクインしていた。イスラエルのテルアビブで結成され、前作リリース時にはテルアビブで活動していたが、2023年の夏に活動拠点をベルリンに移した。DIY楽器を巧みに用い、他の人が捨ててしまうようなものから音楽を作り出しているのが彼らの特徴である。
 本作でも個性的な音が溢れている。他に類を見ないDIYの打楽器や弦楽器の音と、ホーン楽器、オルガンなどの柔らかいメロディの音色、催眠的なイエメン音楽、すべてが一体となって中毒性のある陶酔的なサウンドスケープを作り出している。不思議な感覚にハマってしまう。
 タイトル「ミュート」はご存知の通り音を消すこと。距離や言葉、そしてその欠如を探求しているアルバムだとエヤルは言う。現在も続いているイスラエルでの戦争に対し、「我々イエメン系アラブ系ユダヤ人はガザ地区での戦争を非難します。戦争は沈黙であり、指導者の行動は沈黙であり、イスラム教とユダヤ教、あるいはその他の宗教を分断するのも沈黙です。肌の色や生まれた場所、民族性によって人を判断することは、無意味です。」と言っており、戦争に対するメッセージも込められている。実際に、本作最後の曲には曲中に30秒ほどの無音状態(沈黙)が入っている。
 メッセージ性がある作品だが、DIY楽器の素朴な音にほっこりし、豊かで包み込まれるような感覚もある。妥協することなく、冒険的に作られた、とても魅力的な作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

2位 Buzz’ Ayaz · Buzz’ Ayaz

レーベル:Glitterbeat [1]

 キプロスのバンド、ムシュー・ドゥマニが2022年夏に来日、日本のワールド・ミュージック・ファンに大きな感動を与えたことは記憶に新しい。そのの創設者であるアントニス・アントニウが新たに結成したバンド、バズ・アヤズ(Buzz' Ayaz)のデビュー作。先々月4位で初登場し、先月は1位、今月は2位と堂々上位をキープ!
 ヨーロッパ各地からの観光地として知られているキプロス島は、ギリシャ系住民とトルコ系住民の間で政治的な緊張状態にあり、島は分断されている。しかしエリアによっては、二つの文化が混ざり合い互いに文化的な交流が行われている。このバンドは分断されたキプロスが音楽的に融合することを目的に結成され、分断された両地域から集まった4人のメンバーにより構成されている。アントニスのエレクトリック・ジュラ(ギリシャの弦楽器)、トルコ系のドラム、ギリシャ系の鍵盤奏者によるベースシンセ/オルガン、キプロスに移住してきたイギリス人によるバスクラリネットという編成。
 60〜70年代のロックやサイケデリックオルガンがベースとなり、ギリシャとトルコが融合したメロディックなサウンドはとても重厚で、幻想的、催眠的に繰り返されるグルーヴ感がクセになる。ギリシャとトルコが融合した現代のキプロスのサウンドとも言え、彼らの目的が見事に成功している作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

1位 Nusrat Fateh Ali Khan & Party · Chain of Light

レーベル:Real World [3]

 パキスタン出身イスラム教神秘主義スーフィズムにおける儀礼音楽カッワーリーの歌い手として世界的に有名なヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの作品。彼は1997年に亡くなったが、この度新たな録音が見つかりリリースされることとなった。先週3位で今週は1位に!
 西洋の多数の聴衆の前で公演した南アジアで最初の歌手のひとりであり、1988年マーティン・スコセッシ監督の映画『最後の誘惑』のサウンドトラックに参加、これをはじめとしたいくつかのアルバムやサウンドトラックに参加し西洋や日本での知名度を上げることとなった。カッワーリーを西洋や日本の聴衆に知らしめた彼の功績は非常に大きい。
 本作は、1990年に Real World Records のスタジオで行われたセッションからの未発表音源で、まさに西洋に名を知られはじめた頃、彼の絶頂期ともいえる頃の音源。ヌスラットのメロディックでパワフルなボーカルが、タブラ、ハルモニウムの音色とコーラスと重なり、歌声のエネルギーや、メロディックな妙技が堪能できる。
 非常に素晴らしいパフォーマンス!未発表音源が発見されて本当に良かった!

(ラティーナ2024年11月)

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