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[2022.3]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ⑳】 モアナの世界 ―神話とフィクションとしてのポリネシア―
文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)
先月号では、ポリネシアの第1回目としてトンガをとりあげました。ポリネシアはギリシャ語で、多くの島々のこと。では、具体的にどのあたりを指すのかといえば、ハワイ、ニュージーランド(アオテアロア)、イースター島(ラパヌイ)を結ぶ三角形の海域です。広大な海域に散らばる島々の言語や文化に共通点があるのは、西ポリネシアのトンガ、サモアで形成された古代ポリネシア文化が
[2022.3]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉒】大西洋の向こうの国の革命に送った祝福の歌 - 《Tanto mar》
文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura
1978年のシコのアルバム『Chico Buarque』において目立つのは、この連載の第1回目にご紹介した「Cálice」(ワイングラスとも聞こえるし、「黙れ」と命令されているようにも聞こえる歌)や、誰に向かってであるかは曖昧にした格好で、「あなたがどうであろうと違う日が来る」と説く「Apesar
【松田美緒の航海記 ⎯ 1枚のアルバムができるまで③】 Asas ⎯ 失意の果ての空へ ⎯
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Asas
⎯ 失意の果ての空へ ⎯
文●松田美緒
私は大都会にはことごとく向かない人間らしい。特にデビュー当時、いろいろな問題を抱えながら東京で暮らした後、心を病んで、諦めて一度京都に帰ることにした。心の中は人間不信やら自己不信やらに陥っていて、心配した家族がブラジルに送り出してくれた。
当時ブラジルに行けば水を得た魚のように野生が蘇っていたのが、なかなか心の雲は晴れず、バイーアの
[2022.3] 【連載 アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い⑲】 これはショパンのプレリュード? - 《Insensatez》
文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura
ボサノヴァの人気レパートリー「Insensatez」(愚かなこと。1961年作)は、元恋人らしき相手が去ったことを悲しみながら、「僕の繊細な心を傷つけた君は、なんて愚かなのだ」と独白する内容で歌われる名曲。どこか寂しげなトーンと、ゆったりと流れるシンプルなメロディーが心を打つのでしょうか。ブラジル
【松田美緒の航海記 ⎯ 1枚のアルバムができるまで②】 『Pitanga!』 ⎯ 赤い実に魅せられて東西奔走⎯
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Pitanga!
⎯ 赤い実に魅せられて東西奔走 ⎯
文●松田美緒
私の目標だったアンゴラの歌手ヴァルデマール・バストスのアルバムに『Pitanga Madura』というのがあって、彼に「ピタンガって何?」と聞いたら、「とっても美味しい果実なんだ、アンゴラで学校の帰り道によく食べた故郷の味だよ」と答えた。それからブラジルで1作目を作った後、レシフェのカルナヴァルに行った時だったか、ピタ
【松田美緒の航海記 ⎯ 1枚のアルバムができるまで①】 『Atlântica』 ⎯ 大西洋は深かった ⎯
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【松田美緒の航海誌 ⎯ 1枚のアルバムができるまで①】
『Atlântica』 ⎯ 大西洋は深かった ⎯
文●松田美緒
2004年夜な夜なファドを歌い歩いたリスボンの留学が終わる頃、7月にブラジルのミナスジェライス州の冬の音楽祭出演の仕事と、8月にはカーボヴェルデのホテルに歌いに行く仕事をもらった。
ブラジルはポルトガル語圏の国々のミュージシャンが一堂に会するイベントで、カーボヴェ